うつくしきもの

観劇ブログ

髑髏城の七人season花 観劇記録(ネタバレ配慮無)

2017年度最も注目されてる舞台作品と言えるのではないか?『髑髏城の七人 season花』を観劇しました(2017.04.22)。日本初、そして世界で2番目に作られた客席が回転する劇場IHIステージアラウンド東京のこけら落とし、主催はTBS、チケット入手難易度が高いらしい劇団☆新感線公演、TVメディアでも露出度の高い小栗旬さんと山本耕史さんがメインキャスト。また、season花のあとにはキャスト総入れ替え・演出・脚本も変更しての鳥・風・月の上演が決まっているとか。テレビでもしょっちゅう特集されてますね。また芸能人の観劇率が高そうで、結構いろんな人が観劇報告ツイートを見ます。いつも自分が見ている舞台と規模が違い過ぎて頭がクラクラする…(だからなんだっていうんでもないんですけど)。

私は俄か観劇ファンなので劇団☆新感線は初めてだったんですけど、皆さんどんな感想だったんでしょうか・・・すごくダイナミックですごい作品だったんですが・・・私は・・・期待ほどではなかったな・・・。演出とキャストさんは本当に文句のつけようもなく最高で、心が震えるシーンは何度もありました。ただ脚本的にはまとまりに欠けるというか、この内容ほんとに世界で2番目に作られた最新エンタメ施設IHIステージアランド東京(収容人数1,300強)で上演するものなの!?!?どうなの!?!?皆どうでした!?!?!?!?わからない・・・事前の期待が高すぎたんですね。大体死ぬほど期待してるときは、自分の期待に裏切られているし・・・舞台刀剣乱舞のときもそうだったじゃないですか。

今回に限っては前情報がゼロだったのもよくなかった。「Chicago」(2015年宝塚OG公演)や「エリザベートー愛と死の輪舞ー」(2016年宝塚宙組公演)や「真田十勇士」(2016年日テレ主催)などで体験した前情報ゼロでいきなりぶん殴られる快感が忘れられず今回も全く何も知らずに行ったんですけど、今回は「髑髏城の七人」っていうタイトルでどうしても「七人の侍」をイメージしてしまっていたところがあったんですよね・・・。思ったものと違っていて、しかもあまり内容が刺さらなかったんですよね。多分、思っていたのと全然違うところがすごい魅力なんだと思うんですけどね。

総括感想はこのぐらいですが、以下印象に残った部分の感想です。(思いついたところを順不同に挙げていきます。)

 

◆無界屋蘭兵衛(山本耕史

すっごいかっこよかったです。美しかった。殺陣が巧い。どうもこの蘭兵衛という役は女性や結構若めの男性がやることが多いみたいなんですけど(まあ森蘭丸だものね)山本耕史さんはさすがの貫録があり、すごく落ち着いていて地に足がついている感じがしました。その落ち着きが『本能寺で死ねなかった森蘭丸』という存在の寂寥を感じさせて良かったです。初登場時、いきなり出てきて超長い口上述べるので前情報無しだと「誰だセリフ回しがしつこい男は・・・」となりがちなんですけどこういう存在自体がドラマチックでエモさの塊のようなキャラクター、大抵オタクは好きですね。好きでした。オタクの目から見て、彼は実質ヒロインでした。御着替えも一番ぐらいにあったかな。初登場時(薄緑の着物)→髑髏城単身殴り込み時(白の着物)→闇堕ち時(黒い着物)だったような気がします。また、蘭兵衛のためだけに作られたと思われるセットが一つありました。蘭兵衛が髑髏城に乗り込む際に通る白い花の花畑なんですが、ステージアラウンド東京は360度回転する劇場なので、作りおきのセットがいくつかあって普段は隠れてて使う場面ごとに回転して出て来るんですよね。で、大体どのセットも何回か使われてるんですけど、この花畑のセットはこの山本耕史が城に行くシーンでしか使われてなかった気がするんですよ(うろ覚えだけど)。

この人のパートは基本ずっとシリアスで美しいので納得感がありました。結局、信長公への忠誠だけが彼の生きる意味だったんだなあ、と。主君と死に別れ、太夫と築き上げた無界の里に生きる意味を見出してきたけれど、心の底にはずっと主君を無くした虚無が居座っていてそこから動けないままで、本心からは誰のことも愛せず、自壊していく。天魔王への加担の理由、罪悪感はかすかな一因に過ぎず、望んで堕ちたように見えます。あれだけ捨之助に止められたのに一人で髑髏城に行っちゃうんだもんな~。自分の正気と積み上げてきたものの重さを証明したかったのか、天魔王への罪悪感がそうさせたのか、それともぶっ壊れて全部台無しにしてしまうとしてもそれはそれでよかったのか、これ以外なのかこの全部なのか。

あと人との関係性としては、天魔王には甘いんですけど(口移しで毒飲ませるところ本当にチューしててびっくりした)その分捨之助との絆がちょっと薄くない?と思いました。まあ小姓仲間は天魔王だったんですもんね。太夫との関係についてですけど、あのまま無界屋に蘭兵衛がいたとしても、極楽太夫と一緒になるということはなかったんじゃないかな。中盤以降の森蘭丸の太夫への対応は正直ひどいというか、結局なんのとっかかりにもなれなかった太夫の立場がなさすぎるなと思います。そして無界屋の鏖殺、やりすぎでしょ・・・。家康公の殺害が目的であるとはいえ、あと森蘭丸として生き直すときにこれまで積み上げてきたものが邪魔になるのもよくわかるけど、あんな情緒ない撫で斬りじゃ「今までストレスたまってたんですね・・・」っていう感想になっちゃう・・・。

そして結構早く、しかもアッサリ死ぬんですね。無界屋を壊滅させて捨之助を洗脳したらもう用済みになっちゃう蘭兵衛。「髑髏城の七人」の「七人」が何を指すのかわからずにいるんですけど、もしクライマックスで白い光にシルエットだけ映った七人だったらこの人普通に含まれてないのでびっくりしました。

さて、ラストのカーテンコール、ステージアラウンド東京の回転式舞台をフルに利用して舞台のセットが回転して役者さんが出て来るんですけど、蘭兵衛さんだけが、先述の彼専用と思われる白い花畑の真ん中にたった一人、登場時の薄緑色の着物を身にまとって立って(背を向けて立ち、軽く客席を振り返って)いて、風が吹いて彼の長い黒髪が揺れるんです。これが伝説の美形に吹く風・・・!!!!と思いました。このシーンの美しさだけでチケット代の価値があると思うぐらい綺麗でした。心に焼き付いてます。そして、無界屋蘭兵衛の魂は最後まで誰とも交わらず、無界屋にも髑髏城にもなく、ひたすら孤独で美しかったんだなと思いました。

◆捨之助(小栗旬

いや勘弁してかっこいいわ。普通に好きになるかっこよさだわ。蘭兵衛が遠くから見ているしかない美しさだとしたら、捨之助は隣に行って世話を焼いてみたくなるような魅力のある男ですね。蘭兵衛と違って近寄りがたさみたいなものがないし、普通にひとなつっこいし、昔色々あったんだろうな~っていう感じはあるんですけど、結局自分に好意のある相手から強く出られると拒否しきれないような押しの弱さがすごくよかったです。あと、小栗旬さんって二次元ですね。山本耕史さんの蘭兵衛は「山本耕史さん演ずる無界屋蘭兵衛」なんですけど、小栗旬さんの捨之助は「小栗旬」という感じが全然なかったです。漫画みたいだなと思いました。小栗旬さんいろんな二次元映画とかで使われているイメージなんですが、そういう演技をする役者さんなんですかね。すごいなと思います。あとすごく殺陣が多いので大変そうでした。着流しで足を開いてることが多く、褌出まくってて色気が凄い。足が細い。沙霧とこれからどうなるのかわからないけど、デコボココンビで可愛くてとてもコミカルで良かったです。

人物としては正直、主役の割に掘り下げが甘くない・・・?と思いました。なんだろう、髑髏城に乗り込む、天魔王と戦う動機付けがいまいち印象に残らなかった・・・。かっこよさと人の良さだけが心に残ってます。

全部捨ててきたから捨之助、といいつつ情も思い出も捨てられてない感満載の彼ですが、そういうの銀魂の主人公にそういえばいたね。

◆沙霧(清野菜名

めちゃめちゃよかったです。perfectドリームヒロイン。そんなに沢山舞台見たことないけど、こんなに殺陣が巧い女の人は初めて見ました。子猿のような身軽さでひょいひょいっと広い舞台上を駆け回る。声の通りもすごくよくて台詞が聞きやすいし、小生意気かつ中性的な響きで清潔感がありました。ビジュアルもフレッシュで色気は全然ないんですけど透き通るような輝きと溌剌さがありました。なにより顔がめちゃくちゃカワイイ。なんというか、難点がない。清野さん、まだ若いんですね!これからがすごく楽しみな女優さんだなと思いました。捨之助とのコンビ、捨之助が結構色っぽいので逆にすごくこう・・・漫画的でよかったです。夢と希望が詰まってる。いつ捨之助を好きになったんだろう・・・と思わないでもないんですけど、案外最初から一目見てラブだったような感じもします。捨之助とくっつけるのかはわからないけど、なんとなくずっと元気でいて捨之助を現世に縛り付けて置くよすがにはなってくれそうだし、くっついたら幸せにしてくれそうなので、ラストも安心しました。

◆極楽太夫(りょう)

ビジュアルがめちゃくちゃ好きな極楽太夫。パンフレットでもずっとじっと凝視してしまうりょうさんの美しさ。和装がとにかく似合いますね。舞台もそんなに経験がないと聞いたんですけど、声も通るし力強いし演技もいいし、とてもきれいで目を引くし、すごくいいなあと思いました。

ただこれはキャラクター造形的になんですが、このビジュアルでこの性格なのか~~~と思ってしまったところがあります。パンフの極楽太夫、結構強そうな外見なんですけど、実際の極楽太夫は本当にめちゃくちゃ人柄が良い女性で、なんていうか、ただのいい人なんですよね。いい女、というか、善い人なんですよ。全然狡さとか毒気もないし、気風が良くて、一途で、かわいくて、みんなのお母さんみたいで、我儘なところもないし耐えがたきにも耐えるし、ヒロインにありがちな足手まといさもないし。

かわいいのはいいんですけど、毒気がないぶん信じきっていた蘭兵衛に無界屋を焼かれたときの悲惨さがすごかったし、蘭兵衛に何故だと問いかけるところの無力感、すさまじく痛々しい。あれだけ「綺麗な花には棘がある」ビジュアルにしたなら、なんかもう少し一矢報いれる強さがほしかったなと私などは思いました。まあ最後は幸せになったのでよし。

◆天魔王(成河)

寡聞にして成河さんの舞台を初めて見たんですけどめちゃくちゃいいですね。迸る狂気にぞっとするシーンが何度もありました。蘭兵衛を猫なで声で兄者ぁ・・・と呼びながら自分の傷跡は蘭丸のために出来たと言い、蘭兵衛の罪悪感を揺りに揺らして擦り寄っていくところは圧巻の気持ち悪さです。悪意の塊、妄執の鬼、という感じの非常にわかりやすいキャラクターで、一貫して自分の事しか考えておらず、用意周到なようでいて飽き性でなんでも捨ててしまえる悪魔気質、まさに理の通じないキチガイって感じがすごくいいなと思いました。納得感があるので好感度高いです。一番非現実的なようでいて、こういう人の不幸が蜜の味で悪意のためだけに生きてる人間、いますよね~。ただ、なんというか、最大の敵を屠る武器がアレでよかったん?と私は思ってしまうんだなあ・・・。

◆贋鉄斎(古田新太

この人が出てるシーンは全部笑ってた。というか、終盤は基本ずっと出てるのでずっと笑ってた。刀鍛冶なんですけど、ふざけた傷だらけの肉襦袢を着ていて、何かと思ったら剣が好きすぎて研いだ刀で自分の身体に傷をつけてしまうんですね。村正を「正子~!!!」大典太光世を「ミッチ~!!!!」と呼びながら自分の身体を痛めつける変態ぶりには爆笑でした。あと刀を研ぐために色々な道具を発明しているんですが、その制作過程で自転車を生み出してしまいその自転車で移動したりします。ズルいでしょ・・・。「風呂入ってそっこ~寝る計画♬」とか歌いながら自転車に乗って出て来るんですよ、戦国の世に・・・。あと攻撃は主に持ってる槌で人を殴ってくる。この人は捨之助が天魔王を打倒するための剣を作ってくれるんですけど、この人自身がギャグの申し子なので天魔王と捨之助のクライマックスもどことなく笑いが混じるようになってしまったのが個人的には残念でした。喜劇なら喜劇で、いいんですけど、なんというか、じゃあもう少し狭い劇場でもいいんじゃないかな・・・と思う。笑いをあの広い空間で共有するのは結構、客側の集中力がいるので。

◆兵庫(青木崇高

傾奇者を集めた不良集団の、お調子者のお頭。豪放磊落で気のいい性格ながら、実は農民の出で武士ではない。最後はその心根のまっすぐさで太夫を救ってくれたのでよかったです。ただね、ちょっとね、どうしようもなかったんでしょうが、結局子分全員死んじゃって、やっぱりそのあたりは不甲斐なかったな・・・というところです。そして彼は傾奇者を名乗る農民の設定なので、最後の戦いを鎌で戦うんですけど、控えめに言ってその様子はギャグ・・・ギャグなんですわ・・・子分全員死んでも、通ってた色里燃えても、ギャグなんだよね・・・。それは彼のせいなんじゃないけど、めっちゃ萎えるっていうか・・・なんでしょうね、兵庫さんの人柄に惹かれて集まって、みんなで傾奇者やってきた、その子分が全員死んじゃって、弔い合戦ってときに、農民丸出しのお兄ちゃんに渡された草刈りの鎌で農民ギャグチックに戦うってめっちゃ萎えませんかね。いや、鎌で戦ってもいいけど、もう少し余韻というか・・・たとえば、倒した敵を子分にするぐらいの、度量を見せるシーンがあっても良かったかな・・・。

◆その他

360度回転ステージは、本当にすごかったです。セットを出し入れしなくていいとあんなにスムーズに舞台が進むんですね。役者さんが歩いているシーンで客席も一緒に回っていると、ずっと視界の中心に役者さんがいて歩いてるのが見れて、当たり前なんですけどとっても「旅」の風情があり感動しました。風景がプロジェクションマッピング?で流れていったりするのも時が流れていくのを見ているようで臨場感に溢れていました。色んな舞台をここでやってほしいけど、まあお金超かかりそうだし、来年には取り壊されるらしいし、難しいだろうな。あと座席傾斜が緩いので舞台はあまり見やすくはない。めちゃくちゃ広くて遠いです。幅だけじゃなくて奥行きもすごくある。セットは山本耕史花畑事件からもわかるようにとにかく贅沢で、回せるからなんだろうけど、雨とか池とか全部本物の水を使うので凄くリアルですばらしい。雨の中であのクソハードな殺陣をやるのはかなり大変だろうな・・・と思います。ラストシーンは雨降ってるんですが、みんな必死そうでした。

あとは、設定面なんですが、舞台ってドラマとかよりもずっと安易でおおげさな設定がまかりとおるもんだと思うんですけど、なんかこう錯乱して味方を襲っちゃう酒(幻術)とかは、どうかな・・・って思った。あと刃を通さない鎧もちょっと難しいかな・・・。天魔王の強さみたいなものがそういうニッチな小道具に頼らないといけないもんなのかな・・・正直天魔王に「絶対に勝てない敵感」がないですね。まあそれが必要なのかはわからないですけどね。あと家康公の話をしてないんですけど、すごく殺陣うまくてびっくりしました。ただそんなに見せ場がないというか・・・。

総括ですが、劇場と金のかけ方、キャスティングはほんとに素晴らしかったです。あとキービジュアルも最高だと思います。ただちょっと細部と脚本がわたし好みではなかったかもしれません。劇団☆新感線は次回作に期待だよ!!!